顎関節症について

顎関節症と共に出るその他の症状(肩こり・頭痛よさようなら.TCHコントロール)

ここに説明する症状は,必ずしも顎関節症と同時に出るとは言えません.しかし顎関節症の患者さん,特に長い期間にわたり苦しんでおいでの方にはしばしばみられます.顎関節症の原因が「顎関節症の原因は何か」で説明している,「必要のないときに上下の歯を触らせているくせ」である「TCH」と名づけた癖であることを,多くの顎関節症患者さん方にご協力いただいて,調査した結果の統計解析から発見したのですが,頭痛や肩こりに対してもTCHが原因になっていたり,あるいは元からある頭痛や肩こりを強めていることが分かりました.

どうしてそのような事が起こるかというと,TCHは頬やこめかみの筋肉を働かせ続けるのですが,この筋肉緊張が長時間続くと,頬の筋肉が緊張続けると,その下の首の筋肉や肩の筋肉も緊張し始めることになり,長く続くと首こりや肩こりとして意識されます.またこめかみの筋肉が緊張続けて疲れると頭痛として気づくことになると言うわけです.

1.肩こり・首こり

顎関節症をお持ちの患者さんに最も多くみられるのがこり症状です.こりの最大の原因が姿勢の悪さとされています.それ以外にも原因は色々あります.その多くの原因の一つとして顎関節症,特に後で説明しているTCHがあります.TCHをお持ちだと顎関節症がなくともこりに苦しむ方が多数おいでです.

2.頭痛

顎関節症をお持ちの患者さんで2番目に多い他の症状が頭痛です.頭痛には大きく分けて片頭痛と緊張型頭痛が2大頭痛としてあります.片頭痛は脳内の血管の炎症ですので,顎関節症が関連する可能性は少ないのですが,緊張型頭痛はむかし「筋緊張型頭痛」と言われていました.それは頭痛の出る場所が頭の横の側頭部だったからです.この部分には側頭筋という大きな筋肉があります.この筋肉はものを咬む時に強い力を発揮する,そしゃく活動を上手くおこなうための重要な筋肉です.この筋肉が疲れてくると口を開こうとしてこの筋肉を引き延ばすと痛みます.この「引き延ばすと痛む」という筋肉症状が顎関節症の診断基準の一つにもなっています.引き延ばすと痛むとまでは行かないものの,この側頭筋が疲労してきて「しめつけられるような痛み」を感じるのが緊張型頭痛なのです.ですから顎関節症の結果として頭痛を感じることがあります.また顎関節症がなくとも,これもTCHがあると側頭筋の緊張が続きますので頭痛が出やすくなります.

3.かみ合わせの違和感ないし不安定感

顎関節症になると,しばしば「うまくかめない」という症状が出ます.この原因にはいくつかありますが,最も大きな原因は顎関節症になったことで下あごの咬む位置が微妙に変化するためです.どうして変化するのかというと,下あごの骨そのものが,全身を作り上げている骨のなかで1番というほど位置を変えやすいことが最大の要因になります.くわしい説明ははぶきますが,ほんのわずかなことがきっかけとなり,それまでの位置を変えてしまうのです.位置を変える原因の最大なものは筋痛痛や関節痛としての顎関節症の痛みです.また顎関節の中にある関節円板が位置をずらすことでも,関節の軸となる下顎頭の位置が変わります.

顎関節という関節は左右両側にありますが,顎関節症の痛みが両側に同じように起こることはあまりなく,通常は右や左どちらかに痛みが出ます.両側に痛みがあっても程度には左右差があります.この痛みがあると,そちらの筋肉が痛みがない方よりもちぢこまり,下あごを痛みのある方向に引っ張ります.このために下あごの位置が変わることになります.あごの位置が変わったのですから,咬む位置も変わります.ヒトのかみ合わせの感覚は非常にするどく,紙1枚の厚さでも分かるほどですので,咬む位置が変われば咬んだときの感覚が変わるはずです.しかも下あごの位置の変化は,そのときどきの筋肉のちぢこまり具合によって変わります.ですから咬む位置も,そのときどきで変わることになってしまうのです.

この痛みが原因でおこるかみ合わせの違和感は,当然ながら痛みがなくなれば左右の筋肉の状態が元に戻って落ち着くのですから,下あごの位置も安定して違和感も消えることになります.しかしTCHがあるなら,この癖を治さないと違和感が治らないということになるかもしれません.TCHがあると筋肉の疲労が慢性化する可能性があります.慢性化すると明確な強い痛みはなくても,その疲労程度が変化するたびに筋肉の引っ張る力が変わるので,下あごの位置が変わることから咬む位置も変化し続けることになりかねません.ですから顎関節症としての痛みはないのに,かみ合わせの違和感が続いているという方はTCHが大きな原因になっている可能性があります.

またそのような原因に加えて,気分が落ち込むといった「心の風邪」と言われるような抑うつ気分の亢進も,そのような違和感を強めることがあります.昔はここで説明したような「かみ合わせ違和感」をもった患者さんは歯科医にとっては「疫病神」とみなされていました.「先生,どこでかんだらいいか分かりません」とか「〇〇歯科で治療を受けてからかむ位置が不安定になりました」,「いままで20軒の歯科に行きましたがよくなりません」とかおっしゃります.そして「ここが強く当たってつらいんです」とご自分がつらいと感じる歯のかみ合わせ面の絵を描いてきて「ここを削ってください」と要求されます.歯科医としても調べると「なるほど強く咬んでいるな」と納得できるので「じゃあ削ります」といって強く当たる部分を削ります.しかし数日するとまた「今度はここです」と言って,他の部分を削るように求められます.こういったことが延々と続くことになります.これが悩みの種になるのです.上で説明しましたように,下あごの位置がしじゅう変化しているのですから,咬む位置が変化するのは当たり前なのです.ですから歯を削ってもその不安定がなくなるわけはないのです.

今では歯を削らなくとも違和感を治せるようになりました.つまり筋肉の疲労状態を無くし,同時に大きな原因となっていた癖であるTCHを治せばいいのです.患者さんの中には,生まれつきの歯列が乱れていて本当に咬みにくそうな方もおいでです.あるいは上に書いたように,これまで多くの歯科医をまわってやたらと歯を削られたことが原因で,本当に咬む位置が不安定になっている方もおられます.それでも歯に対しては一切治療せずに違和感は消せます.違和感が消えたあと,左右の筋肉が正常な状態に戻ったあとでかみ合わせに対する治療を行えばいいのです.安定した下あご位置が得られていれば咬みやすいように歯科治療を行うことが可能になるのです.