顎関節症は全ての患者さんが同じ症状ではありません.それは顎関節症と診断される中に,幾つかの分類があるからです.日本では大学に属する顎関節症の専門医および実際の地域歯科医療の中で顎関節症について勉強して臨床にあたっておられる開業歯科医が中心となり,日本顎関節学会という学術学会を構成しています.この学会が定めた顎関節症の分類があります.
咀嚼筋痛障害
下あごを動かす咀嚼筋と呼ばれ,顔の左右に一対ずつある筋肉が疲れ,上手く伸ばせなくなり,痛みが出るようになった咀嚼筋痛障害があります.この場合は顎関節そのものには問題がないので,関節が痛んだり関節に音がすることもありません.多くの方の症状は口を開けようとするとこめかみや頬の筋肉が痛み,大きく開口する事ができなくなります.このように関節そのものは問題なくとも,関節を動かす筋肉の問題がある場合も顎関節症に含まれます.
顎関節痛障害
2番目は下あごをぶつけたり,あるいは硬いものを急に咬む,または大きな口を急に開けたりすることで,顎関節を傷つけることがきっかけで始まる顎関節痛障害という型があります.この場合は耳の前にある顎関節付近に,あごを動かすときの痛みが出ます.しかしこの場合も関節の音が出ることはありません.
顎関節円板障害
3番目は顎関節の中にある関節円板が変形したことで始まる顎関節円板障害というもので.一般的には,始めに「カクン」という音が口を開くときに出るようになります.この頃は,音はしても痛みは出ません.また口を大きく開けることもできます.しかしこの音を持った人のごく一部が,ある日突然大きな口を開けられなくなります.これは突然そうなるので,そうなった人はとてもビックリします.しかも無理に大きな口を開けようとすると,顎関節や筋肉に痛みが出ることから,不安になる方も多くおいでです.これは上に触れた関節円板の変形が大きくなったことで,下あごの関節部分である下顎頭という関節の軸が,大きくは動けなくなり開口が制限されるのです.以前,わたしが勤めていた東京医科歯科大学の顎関節治療部では,この型の顎関節症患者さんが最も多く来院されました.
変形性顎関節症
4番目は1番目から3番目の型の顎関節症が長く続いたことによって,骨の変形まで起こしたもので,変形性顎関節症と呼びます.下の図解をご覧ください.
このように顎関節症には4つの分類がありますが,心配は入りません.昔と違って,今はどの型であろうとも,同じような治療で回復できますし,たとえ骨の変形があっても,それが大きな問題になることはありません.ただ,音だけの状態の場合,音を消すには手術で関節円板を取る必要があることから,他に痛みや機能障害がないなら治療の対象にもしないというのが,世界的な流れとなっています.ちなみに,私自身、左顎関節に大きな「カクン」という音がします.しかしこの音が始まってから50年経過していますが,これで困ったことがないので,手術を受けようとも思っていません.音が出るしくみについてくわしく説明していますのでそちらもお読みください.