1.に述べましたように,マウスピースは寝る間だけ使うのが一般的です.しかし効果が上がらない場合,歯科医から「1日中使いなさい」と指示されるかもしれません.このように言われたからといって,終日使用することは絶対に行ってはいけません.このような使い方をすると歯が動き,マウスピースを外したときに前のようには咬めなくなる可能性があるからです.歯科医によってはそのように咬めなくなる,あるいはかみ合わせが大きく変化したあとで,そのかみ合わせをよくすると称して高額な治療を提案する場合があります.要するに歯科医が患者さんのかみ合わせを変化させておいて,それを元に金儲けに結びつけようとするわけです.まあそこまで考えてはおらず,マウスピース以外にはどうしたら良いか分からないので,使用時間を長くすれば効果が出るのではないかと考えて「1日中使いなさい」と言う,勉強不足歯科医であるだけかもしれませんが.とにかく「マウスピース使用は寝るときだけ」にするのが安全です.
マウスピースを使った方は経験されていると思いますが,使い始めの数日は症状が楽になります.しかし毎晩使っていると1週間ほどで症状が元に戻る場合が少なくありません.これはどうしてなのかと言いますと,初めてマウスピースを口に入れて寝るとき,口に異物があるわけですから違和感をおぼえるはずです.違和感をもった脳は,あごの筋肉の活動を抑えてそのマウスピースを咬まないようにします.咬まないので筋肉は活動をやめることができますので,疲れて痛みまであった筋肉を休ませることになります.また筋肉が休むことで顎関節を押しつける圧力が弱まり,これによって関節も安静にすることができるようになるのです.このようなことが起きるために「症状が軽くなった」と感じるわけです.しかし毎晩使っていると,脳がマウスピースに慣れてきます.慣れると以前と同じようにマウスピースの上から咬もうとしますので,筋肉活動が再開し,疲労が蓄積すれば筋肉痛,関節の押しつけが続けば顎関節痛が元に戻って再開するというわけです.
ですからマウスピースはその使用に脳が慣れないよう,毎晩使用ではなく,時々使うのがいいのです.できれば「今夜は咬みそうだな」という自己判断できると良いのですが,それが難しい場合は一日おきに使う,という形から始め,痛みが戻ってきたら2日使用しない.というように時折使用を休みながらお使いください.
最後に大事な事をお話しします.3.にも書きましたように,マウスピースが効果を上げて顎関節症の痛みを消すことができるのは,全患者さんの20%程度であろうと考えています.よくならない最大の原因はTCHがあるからだと考えていますが,TCH以外にも,顎関節症と同じような症状を起こす病気は多くあります.そのため,このことは知っておいてください.マウスピースによる治療を開始してから,2週間以内に症状が軽くなってくるという事がない場合,TCHがあるかあるいは他の問題があるのかもしれません.良心的な歯科医であれば,2週間してマウスピースの効果がなければ,TCHの是正を指導するか,専門医に紹介するはずですが,そのような話しが出ない場合,ご自分で他の,できれば顎関節専門医を受診されるようお奨めします.専門医の所在地は日本顎関節学会のホームページから検索できますので,ご自身のお近くの顎関節専門医を受診してください.